家づくりコラム

必要な無駄

必要な無駄

富士見の家

「富士見の家」には、建物から独立して、一枚の壁が立っています。

写真で見ると、こんな感じ。

無駄と言えば、無駄です。

間取りとしては、1階、2階とも正方形の中にきちんと収まっているので、建物から独立したこの一枚の壁は存在しなくても、本来、間取りは成立します。無駄と言えば、無駄です。もちろん、その分、建築費も余計にかかってしまいます。

それでも、この壁を立てたのには、いくつかの理由があります。

まずは、洗濯物を隠すためです。2階のバルコニーに物干し場があるのですが、この一枚の壁がないと、道路から丸見えです。完全に隠れるわけではありませんが、この壁によって、道路から歩いている人の目線からは、ほぼ洗濯物を隠すことが出来ています。

また、住宅の外壁には、美観上、あまり見せたくないものが取り付いてくるものです。例えば、ガス給湯器、ガスメーター、エアコンの室外機、外部水栓など。どれも必要なものばかりなので、なかなか全てを道路側から隠すことはできないのですが、富士見の家では、これらのほとんどを敷地の西側(一枚の壁の後方)に集中させて計画しました。そして、それらをこの一枚の壁によって、ほぼ隠せています。おかげで、道路側の外壁面には何も取り付かず、スッキリとした印象となっています。

次に、外観デザインのバランスです。富士見の家は、中央の玄関・木製ルーバーを挟んで、右と左に壁がありますが、左右非対称です。この左右非対称の視覚的な不安定感を解消するためにも、一枚の壁がバランスを取り、大いに役に立っています。

一枚の壁と建物の間のスペースは、1坪の前庭としています。シンボルツリーとして植えたのは、アオダモです。完全に囲われた植栽スペースだと、風が通らず、虫がつきやすくなってしまうのですが、このスペースは風通しも良いので、アオダモもすくすくと成長しています。

夜には、タイマー制御で、ライトアップもしています。都市住宅で、ライトアップする場合に注意が必要なことは、近隣への光害です。その問題についても、この一枚の壁が、近隣への光を遮り、効果的な役割を果たしてくれています。

他にも、まだまだ、細かいメリットは多いのですが、一枚の壁を立てた理由、お伝えできましたでしょうか?

このように、住宅設計においては、一見、無駄と思われるモノが大いに役に立ち、生活を機能的に向上させたり、美観の豊かさに繋がっていくことがあります。もちろん、計算された「無駄」でなければ、本当の「無駄」に終わってしまいます。

私達、建築家は、時に、このような計算された「無駄」を提案させて頂くことがあります。今回のような「一枚の壁」に限らず、例えば、「小さな吹き抜け」や「ふかし壁」「垂れ壁」「ちょっとだけ広めの階段ホール」「半畳の前室」「あえて作る床の段差」「低めの天井」「木製ルーバー」「列柱」など。

家づくり成功のカギ

「必要な無駄」が、「暮らしの豊かさ」に繋がることもあるということを心の片隅にでも、覚えておいて頂けると嬉しく思います。